USA-33開発者インタビュー掲載

USAGI NO MIMI 開発者インタビュー

「USAGI NO MIMI」を開発した中心人物である吉岡喜久夫氏は、1982年に株式会社クルーズを立ち上げ、長年にわたり多くのブランドで、エレクトリック・ギター/ベース、アコースティック・ギター、ウクレレなどの弦楽器類、様々なギターアンプ、ミキサー、エフェクター類、ギターパーツ類などを数多く開発してきた。また、高級オーディオの魅力を熟知していることもあり、それらのノウハウを活かし「楽器の音が見えるオーディオ」の開発に取り組んできた。

Interview by MINORU TANAKA

「USAGI NO MIMI」と名付けられたそのアンプは、吉岡氏ならではのキュートなデザインにまとめられているが、音に対する拘りはオーディオ評論家やベテランミュージシャン達をもうならせる仕上がりである。ギターの音はギターらしく、ウッドベースの音はウッドベースらしく聴こえるという。

その「USAGI NO MIMI」は、一般的なオーディオアンプと何がどう違うのか? 製品のコンセプトを吉岡氏に訊いた。

●この製品を開発しようと考えた経緯から教えて下さい。
○最近音楽の聴き方がだいぶ昔と違う方向に行っているように思えます。音楽を作る側には制作の意図がありますが、それとは別にリスナー側が「自分たちが聴きたい音に書き換えて聴いている」というのが現状です。アナログ盤からCDに変わった段階で、すでに上(高域)も下(低域)も周波数帯がカットされて音が悪くなっています。音楽には作者の意図があって、楽器の音がある。それがリスナーに正しく伝わるオーディオを作りたいと思いました。ウッドベースがちゃんとウッドベースに聴こえる、生ギターだったらボディのサイズ感まで伝わるようなオーディオであって欲しい、それを表現できる製品が作れるハズだと。自分は長く楽器や音楽に深く関わった仕事をやってきたので、そういう音に対する認識は他の人よりは確かだと思います。

●そのアンプは昔の音楽ソースでも現代の音楽ソースでも良いのでしょうか?
○もちろんです。しかし今は、昔のようには生楽器が使われていないことが多いので、そういう場合は楽器のポジショニングだったり、立体感が正しく聴こえます。近年は多くの人がイヤフォンで音楽を聴くけど、それってちょっと違うんじゃないかと。アナログ楽器は本来空気の振動によって音が伝わるわけで、弾き手と聞き手の間には空気感やタイム感があり、そういうことを含めて聴いてもらいたいです。

●オーディオマニアの方々は、高価なオーディオを使用することでその空気感やリアルな楽器の再現を聴いているわけですね。
○そうです。しかし、皆が1000万円のオーディオで音楽を聴くことは現実的ではない。だから一般の人達が十分買える価格帯の製品でなければなりません。


●いつ頃からオーディオを作ろうと?
○3年程前です。僕はコルグの新真空管、NUTUBEの開発プロジェクトにも僅かですが関わりがありまして「これを使えば理想に近いアンプが実現できるのではないか…」と考えました。「楽器フェア 2016」でその試作品を展示し、自分としてはジミ・ヘンドリックスの「ウォッチ・タワー」のサウンドを、ジミが伝えたかった音で皆さんに実感してもらいたいという気持ちでした。(歌の)後ろに入ってる生ギターの音も聴いて欲しい。その最初の試作品で生ギターの音がうまく「引っ掛かってきた」ので「これはいけるかな…」と思いました。そしてチューブならではのサウンド… 音源のギターやピアノ、ベースなど弦の音がどんどん「引っ掛かって」聴こえてきました。

●その音は何がどのように違うのですか?
○周波数帯の下や上を膨らませたりせず、元の音源を加聴せずそのまま再現します。

●真空管だからオリジナルの音源を再現しやすい?
○真空管は歪みやすいのですが、その「歪み」こそが弦楽器の音を再現するのに向いています。

●これまでオーディオを製作された経験は?
○弊社では、これまで弦楽器の他に様々なアンプやエフェクターなどを沢山開発、製作してきましたが、それらの音決めはほとんど自分がやってきました。弊社に中島徹広というエンジニアがおりまして彼と一緒に開発をしました。

●ユーザーのターゲットは?
○多くの人たちに使ってもらいたいので、販売価格は10万円を切りたいです。特に音楽制作をしている方々や自分で楽器演奏をする人達に使ってもらいたい。近年の日本はデジタル楽器を使ってデスクの上で音楽を制作し、最後にファイナライザーのボタンを押して完成という作品が増えています。そうじゃなくて、アメリカでグラミー賞を取るような作品は、生楽器も沢山入っていてきちんと作られています。そういう作り手の意図を汲み取れるオーディオであって欲しいんです。

●私もオーディオマニアの友人宅で自分が聴き慣れたアルバムを聴いた時に、それまで聴こえなかった音が沢山入っていることに驚きました。
○そう、それを10万円以下のオーディオで実現したいんです。

●お手軽な音楽制作も多い時代の中で、このオーディオはどういう効果がありますか?
○でも、こんなにお手軽に音楽を制作をしているのは、日本とアジアの一部くらいでしょう。アメリカは大衆音楽でもちゃんと作り込んでいますよ。日本は「音楽を作る」というより「売れる作品を作る」という意識が強く、楽器の演奏などが おざなりになってきてますね。
それは単に音源がアナログからデジタルに変わったということとは別で、どんどん音源が曖昧なサウンドになっているという危機感もあります。昔はシンセサイザーでも「これはどこのブランドの音だ!」というキャラクターがあったけど、最近はピアノなのかシンセなのかも分からない音がどんどん増えている。だからこそ音楽をリアルな音で聴いてもらいたいんです。

●日本は住宅事情もありなおさらイヤフォン文化になっていますね。
○それはあります。でもこのアンプは小さな音でも効果的に聴こえます。音量の大小はあまり関係ありません。USAGI NO MIMIでぜひビル・エヴァンスの “ヴィレッジヴァンガード” を聴いてください。

●このアンプで特に効果的な音源は?
○ジミ・ヘンドリックスですね。あとピンク・フロイドも。ビル・エヴァンスは、レコーディングした時のマイクの位置、客のノイズ、メンバーの立ち位置やピアノのサイズ感とかもリアルに感じられます。最近ではジョン ・メイヤーのアルバムの楽器の配置(定位)は素晴らしいですネ。

●製品にはこのUSAGI NO MIMIと蓄音機のマークが付いていますね。
○グラミー賞のイメージです。リアルなサウンドで沢山音楽を聴いて、グラミー賞を取ってもらいたいという(笑)。「音のリアル感とか分離とか、どうでもいいじゃん」と言ってしまえば…それまでですが、長い間楽器の製造に携わってきた者としてはどうでもよくないし、やはり危機感を感じます。

我々はアコースティック・ギターでも、音を聴けばそれが000(トリプル・オー)サイズかドレッドノートサイズか、またマーティンかギブソンか?という位は分かりますよね。演奏するミュージシャンだって「この曲のイメージだったらギブソンかな?」とか考えながら楽器を選んで演奏しているわけで、そういう想いを聞き手に伝えたい。やはり楽器があって音楽がある、そこのところをおざなりにして欲しくないんです。

元々楽器を使って音楽を作ってきたんだけど、シンセサイザーの登場以降は楽器みたいな音で音楽が作られるようになり、最近は本来の楽器が取り残されそうにさえ思えます。だからもっと楽器本来の音を聴いて欲しいです。

●リアルに音楽を再現するというのは、具体的にはどういうことなんでしょうか?
○オリジナル音源を、CDや一般的なオーディオでは100パーセント引き出すことができない。カットされたり省略されたりしていない音楽を聴いて欲しいということです。

●スピーカーとのマッチングなどは?ハイエンドスピーカーを使う必要は?
○ないです。ここ(音決めを行なった部屋)にあるのもセットで3万円くらいのスピーカーです。これで出音を確認しています。もちろんヘッドフォンで聴いてもその違いはお分かりになると思います。また、ハイエンドスピーカーになればなるほど、音の差は鮮明になります。

●近年はアナログレコードがブームになっていますが、アナログ音源を聴くのに最適なアンプといえそうですね。
○ぜひこのUSAGI NO MIMIでアナログ盤を聴いてみて下さい。きっと新たな発見があると思います。


“USA-33” サウンドレビュー

Text by YASUKAZU OTSUKA

フーチーズ・サイドパーク店に伺い、実際に「USAGI NO MIMI」の音をアナログレコードとハイレゾ音源を持参して試聴してみた。参考までに書いておくと、プレーヤーは前者が定番のテクニクスSL-1200 Limited(PHONO入力)、後者は世界最高峰DAPのA&ultima SP1000(LINE入力)である。スピーカーは同店に常備されていたヤマハのブックシェルフをメインに使用した。スピーカー端子はバナナプラグ対応のしっかりしたもので、この部分でも音に対する本気度が感じられた。

まず、アナログレコードを再生して驚いたのは、エコーつまりライヴ録音などの会場の響きが非常に綺麗に出ること。しかも、女性、男性ヴォーカルともに声に歪み感がなくスムーズで、実に聴きやすい。そして最も感動したのは、楽器の音が極めて良く、実体感があるということだ。例えばストラトのハーフトーンやマーティンのアコースティックサウンドは、これまで聴いてきた高級オーディオに匹敵するほどの素晴らしさだった。3万円台という決して高価ではないスピーカーからこれだけの音を引き出すのだから、立派と言う他はない。真空管のメリットのひとつに、ギターアンプでも同じだが、スペック以上のパワー感を出せるということがある。「USAGI NO MIMI」の実効出力は20W+20W(8Ω)なのに、それ以上の迫力と押し出しの良さがあり、非力さを微塵も感じさせないのだ。これにはBTLという左右のチャンネルそれぞれにステレオアンプを割り当てる、いわば贅沢な仕様が採用されていることもあるが、そうした専門的な要素を意識せずとも真空管すなわちNutubeの良さを体感できるだろう。

「USAGI NO MIMI」は10万円を切る価格を予定しているそうだが、まさにコストパフォーマンス抜群のオーディオシステムがセットアップできるわけだ。因みにLINE入力はポテンシャルをチェックするために敢えて超高音質の音源を再生してみたが、アナログレコードとはまた違った最新のデジタルサウンドをタイトにそして心地よく聴かされて、思わず全曲通して聴き惚れるほど。

試聴機はまだチューニングする余地があるということであったが、現状でも充分な音質を達成しているので、最終的にどのような音に仕上がるのか楽しみだ。大いに期待したい。

USAGI NO MIMI 製品ページはこちらから